目次  第02話






第01話 それがすべての始まり







 それが旅の始まり。

 世界の広さを、一つの事実を知る。

 決して後戻りは出来ない。

 私はすでに足を踏み入れてしまったから。










 超高層のホテルの一室。

 朝日が窓を照らすと、低く小さなモーター音と共にカーテンが独りでに開いていく。シンプルな内装に簡素だが清潔感のある白いベッド。

 そこで眠る女性の、金色の長髪が白いベッドによく映えていた。きめ細かい肌にさらりとした長髪。長いまつげが彩るその寝顔は、何処かのお姫様のようだった。

 しかしお姫様はタイトスカートをベッド脇に脱ぎ捨てたりワイシャツのままベッドに潜り込んだりしない。


「ん……」


 部屋に差し込む朝日がまぶしいのか女性は軽く呻くと腕に力をこめる


「ぐ、ぇ……」


 女性の腕の中にいた小さな少女が呻き声……いや、潰れたような声をあげた。

 その声に締め付ける本人がパチリと目を覚ます。


「わわっ! ご、ごめんミルアっ!」


 二十歳前後のその女性「フェイト・T・ハラオウン」は慌てて腕から少女を解放しながら謝罪した。

 ミルアと呼ばれた少女は絞められていた首を僅かにさすりながら上半身を起こす。

透き通るような白い肌に、白い髪。一見すると肩までほどの長さの髪だがちょうど首の後ろの一束だけが尻尾のように長く、ベッドの白いシーツに溶け込んでいる。フェイト同様、白いYシャツにパンツ一枚というラフな格好。そして、思わず見入ってしまうような真っ赤な瞳には、若干フェイトへの非難の色が浮かんでいた。


「まさか朝っぱらから首を絞められるとは思いませんでした」


「あはは……本当にごめんなさい……」


 ミルアの非難の言葉にしゅんとして謝るフェイト。

 そして、どこか寂しそうな表情をしてミルアを見つめた。


「……?」


 フェイトの意図がわからず、こてんと首を傾げるミルア。

 そんなミルアをフェイトは、正面からやさしく抱きしめた。

 意図がわからずともおとなしく抱きしめられていたミルアだったが、やがてフェイトの瞳を覗き込むように、


「どうかしたのですか?」


 そう言われたフェイトはミルアの髪を指ですきながら、


「今日にも行くんだよね?」


 フェイトのその言葉にミルアは黙って頷く。


「以前から決めていたことです。」


 そう以前から決めていたことだ。今日、この世界を旅立つ。いつ戻ってくるかはわからない。戻ってこれるかどうかも……

 そんなミルアの内心を知ってか知らずか、フェイトはやや強引に笑顔を作り、


「はやてがね、パーティーでもしようか? って」


 フェイトがそう言うと、ミルアはややげんなりしたように、


「断っておいてください。そういうの苦手です」


「あはは……だよね」


 フェイトは苦笑する。

 そして互いの額をくっつけるように顔を近づけると、


「ちゃんと帰ってくるよね?」


「いつになるかわかりませんよ?」


「それでも帰ってくるよね?」


 フェイトの問いに僅かに沈黙したミルアは、


「いつか、いつか必ず。貴方の元に」


 その言葉にフェイトは満面の笑みを浮かべた。





「くっ……」


 木々が生い茂り、その隙間を縫うように日の光が降り注ぐ森の中、ミルアは直径三十ミリはあろう弾丸が自らの顔を掠めて思わず声を漏らした。

 ミルアの格好は独特だ。

 黒い半そでのシャツで肩の部分はパフスリーブ。

 首下には赤いリボン。

 小さな薄手の黒い手袋に、黒いミニのティアードスカート。

 スカートの淵はそれぞれ赤いラインが入っている。

 そして腰には赤と黒のタータンチェックのベルトが三つほど巻かれていた。

 黒いオーバーソックスに黒地に赤いラインが走っているブーツ。

 いわゆるゴシックパンクとかゴスパンとか呼ばれる格好だ。

 一応これでも魔法で作られた防護服、バリアジャケットと呼ばれる物である。

 しぶるフェイトやその仲間達、高町なのはや、八神はやて、なのはの娘であるヴィヴィオや、フェイトの部下であるティアナ・ランスター達の下から旅立って数ヶ月。

 様々な次元世界を渡り歩いてやっと見つけた手がかり。

 こちらがあちらを見つけ、あちらもこちらに気がつき、先ほどから絶え間なく弾丸が撃ち込まれてくる。

 ミルアが手にしているのは「双頭」と呼ぶ武器。二本の片刃の剣、その持ち手同士をくっつけた様に上下の区別がないものだ。剣、と言ってもこの「双頭」に刃はない。普通に振り回せば単なる鈍器。しかし、魔力を走らせることによって、それを刃として対象を切り裂くことが出来る。

 その双頭を振り回し撃ち込まれてくる弾丸を打ち払い、時にはかわし、ミルアは森の中を、対象に向かって駆けてゆく。

 見えた。内心でそう呟くミルアの視界が対象を捉えた。

 数は二十。それぞれの身長は百四十センチから百五十センチほど、百三十センチ前後のミルアからすれば少し大きな相手だ。

 そして何より、赤外線で体温を捉えることのできるミルアの目には、対象が人間の姿をした、人間でないものとして映る。

 「人形」と呼ばれる、精巧に少女の姿を模した人型戦闘兵器。


「あぁぁあっ!」


 声をあげ「人形」の群れにミルアは飛び込んだ。

 腰を捻り体を半回転。

 瞬間「人形」二体の首が飛ぶ。首の断面から火花を散らしながら「人形」は後ろへ倒れた。

 機械仕掛けの体も脆い所は脆い。

 「人形」が手にしているのは銃身の長さが一メートルはあろう大きな銃だ。遠距離用の物で、その弾丸は森の木々すら障害とせず貫いてくる。

 だが近距離においてはその長い銃身が邪魔になった。ましてや周囲の木が邪魔して取り回しづらい。

 動きが鈍った「人形」をミルアは容赦せず切り捨ててゆく。

 「人形」達は銃を捨て、固定装備である三百ミリほどの長さの、高速振動するブレードを、右腕の籠手から突出させ近接戦を試みる。

 しかしミルアの動きはそれより速く、尻尾のような髪をなびかせながら「人形」の腕を双頭ではねとばし、その胸を貫いた。胸の内部に動力炉がある「人形」は目の光を失いその機能を止める。

 ブレードを突出させ次々と跳びかかってくる「人形」を、ミルアはその場から余り動かず、まるで舞うように、次々とスクラップへと変えていった。



 数分後、全ての「人形」はただの物言わぬガラクタと化していた。


「困りましたね……」


 こてんと首をかしげミルアは呟く。

 彼女の目の前には一辺が二メートルはあろう立方体が鎮座していた。全面が真っ黒でつるんとした表面は鏡のようにミルアの姿を映している。

 ミルアはぺたぺたとその表面を触りながら立方体の周りを一周した。あちらこちらに、つなぎ目の様な物は確認できるがそれだけ。

 ミルアの目はそれが何かしらの機械だと映していた。

 ただ何の機械なのか、どう使うのかまったくわからない。


 ぞわりと背中に悪寒が走った。


 次の瞬間、黒い立方体のつなぎ目の様な物から光が漏れだす。

 そして同時にミルア自身の体も光に包まれだした。

 なんだかよくわかりませんが、まずいことにかわりはないっ!

 ミルアは慌ててその場から離れようとするが何故か体が動かない。まるで何かに縛り付けられたような感覚にミルアの中の焦りが大きくなってゆく。


<これより対象の転移を行います。カウントダウン開始……5……4……>


 突然聞こえてきた音声にミルアは驚く。

 その音声は黒い立方体から聞こえてきたものだ。

 転移? いったい何処へ?

 ミルアの中に疑問符が浮かぶ。対象というのは間違いなく自分という事はわかるがそれ以外が全く分からなかった。

 しかし無情にもカウントダウンは続けられその数字はゼロとなる。

 するとミルアを包んでいた光はさらにその輝きをまし、次の瞬間、ミルアはその場から消えていた。


<対象の並行世界への転移を確認>


 黒い立方体からの小さな音声が森の中をながれた。





 栗色の髪が肩ほどまで伸びていて、ちょうど額の左端辺りの髪をヘアピンで飾った車椅子に乗る少女、八神はやては「119番って何番やったっけ?」などと、とんちんかんな事をつぶやいた。

 現時刻は早朝の5時。

 場所は彼女の自宅の庭。そこには普通では考えられない光景があった。

 はやて目の前に女の子が倒れている。

 はやての少女に対する第一印象は「白い」だった。

 太陽はまだ完全に昇ってはいないが部屋の明かりで庭は照らされている。

 その明かりに照らされた少女は本当に白かった。まず髪の白さが目につく。光の加減によっては銀にも見えるが、確かに白だ。そして肌も白い。

 特に何もデザインされていない黒のTシャツに、白いミニのプリーツスカート。

 何故、庭で倒れているのか? はやてにとっては謎ここに極まる、である。

 ついでに金属製の厚みのあるカードケースのようなものを腰の両側にそれぞれぶら下げている。それはよくみると、まるで拳にはめ込めるように綺麗にL字型の穴が開いていた。

 はやてはまじまじと、しばらく観察を続けていたが、やがて、はっとして「えぇっと119番は……」などとまた繰り返す。

 そんな中、少女は目を覚ました。

 がばっと状態を起こして周囲を見渡す。

 その様に驚いたはやては車椅子に乗ったまま上半身だけで飛びのくような仕草をする。

 無駄にオーバーリアクション。

 そんなはやてをミルアは、じーっと見つめる。

 はやては見つめられて何故か顔を赤らめた。

 そして少女はこてんと首をかしげ、はやてもそれに合わせるように首をかしげる。


「え……まじ?」


 少女はそう呟き、はやてもなんのこっちゃときょとんとしている。

 しばしの沈黙。

 実に気まずい空気が場を満たしていた。

 この空気を何とかしようと、はやてが先に口を開き、


「えと、とりあえずおはよう。いやー気持ちいい朝やねぇ」


 できうる限りの笑顔であいさつするはやて。

 言ってすぐ、地べたで寝てて気持ちのいい朝はないかもしれんと、自身のなかでつっこんでおく。

 ファーストコンタクトは失敗と結論付けるはやて。

 すぐさま取り繕うべく次のあいさつを考える。


「えっと、私の名前は『八神はやて』や。よろしく」


 考えた末がコレである。

 ごく普通の自己紹介。

 捻りもボケも特にないふっつーの自己紹介。

 はやてとしては失敗の上塗りをしたと判断せざるを得なかった。



 ミルアは自分の耳を、そして目を疑う。

 目の前の「八神はやて」と名乗った車椅子の少女は確かにミルアが知る八神はやてだった。

 ただし写真や映像で見た「10年以上前」の八神はやてだった。

 ミルアは頭の中が真っ白になりそうになる。

 わけがわからない。タイムスリップ? いや違う。

 ミルアの中の何かが違うと告げる。

 そもそも、この世界の肌触りが自身の知る地球と違う。

 ということは、ここは話に聞く並行世界の一つということだろうか。

 そうだとして、ミルアはある疑問が浮かんだ。

 確認しなくてはならない事がある。


「はじめまして八神はやてさん。私の名前はミルア・ゼロ」


 ミルアは立ち上がって、はやてに挨拶をする。

 そして、


「早速で悪いのですが今日が何年何月何日か教えていただけますか?」


「えぇとミルアちゃんやね。私の事は、はやてでええよ? それと今日は―――」


 はやての答えを聞き考えるミルア。

 まだ闇の書の封印は解かれていない。はやての誕生日に封印はとかれるが今現在はそれより以前だ。

 そしてミルアの記憶が確かならジュエルシード事件が始まるまでの時間もそうはない。

 ミルアはいまだ混乱しつつも現状を確認しようとする。

 そしてどう行動するべきか。

 首をかしげ考え込んでいると、そんなミルアを心配したのか、はやてが、


「えと、ミルアちゃん? 大丈夫か? なんやえらい考えごとしてるみたいやけど」


「はい? あぁ、大丈夫です。それと私の事はミルアと呼び捨てでかまいません、はやて」


 下から顔を覗き込まれて思わずのけぞる。

 ミルアは以前から、はやてには「チビダヌキ」という印象を持っていたのだが、今、目の前のはやては「マメダヌキ」

 そんな失礼なことをミルアが考えていると、


「とりあえず、こんなとこで寝てたわけでドロドロやし、お風呂沸かすし入ってき。詳しい話はお風呂から上がってから聞くよ」


 はやては、そういってニコリとする。

 一瞬戸惑うミルアだったが自分の体を見下ろす。地面にねっころがっていたのだ、確かにドロドロである。

 仕方ない、とミルアは、はやての提案を受け入れることにした。





 八神家のお風呂は、一軒家にふさわしい程よい広さのお風呂だった。

 何故か湯船にアヒルが浮いているが、その意図がわからない。

 このアヒルで何をしろと。さて、どうしたものか。

 ミルアは頭や体を洗い終え、口元まで湯に浸かりながら考える。

 まず一番いいのは元の世界に帰ることだが、そんな方法はさっぱり思いつかない。

 転移する際の現象や自身に残る感覚はしっかりと記憶しているだが、そんなもので、どうにかなるものではない。仮に数式がわかれば逆算するなりなんなりで道筋はつかめるかもしれないがそう都合よくはいかない。

 ミルアはややふてくされる様に湯の中でぶくぶくと空気を吐く。

 元の世界に帰る方法が見つからない以上、この世界に滞在するしかない。いや、別の次元世界に転移するのもありだ。

 そこで新たな問題。

 この世界が自分の知ってる世界と同様の道を歩むのなら、近々始まるであろう「ジュエルシード事件」と「闇の書事件」を無視するのかということ。

 両事件の大まかな概要は知っているし本人達からも多少は話を聞いている。

 そして以前、違法な研究施設を襲撃した際、施設内のデータベース内に両事件の詳細があって多少は目を通した。

 だから、両事件が無事解決するのはミルアも知っている。

 「だが……」とミルアは呟く。

 大切な人たちがいなくなり、その人たちを大切に思っていた人たちが悲しんだ。

 ミルアは天井を見上げる。

 自分がここに現れたせいで自分の知っている通りに事が運ばないかもしれない。ほんの小さな差異がどのような形で世界に影響を及ぼすのかわからないのだから。

 しばらく考え込んでいたミルアは首を横にふった。

 わからないのなら、受身はではなく攻めてやる。この世界の人々だってちゃんと生きているんだ。涙を流すより笑顔のほうがいいに決まっている。

 それなら私が―――


「私の力で結末を変えれるのなら―――」


 ミルアはそう言って立ち上がる。

 握った拳から何かがきしむ様な音を響かせながら。



 脱衣所で体を拭いていたミルアはあることに気がついた。体を拭くためのタオルは、わざわざ新しい物と思われるのが用意されていたのだが肝心の着替えがないのだ。

 先ほどまできていた服は今現在、洗濯機の中でぐるぐると回っている。

 わずかに考え込んだミルアだったが、ないものは仕方ないと、頭にタオルをかぶり、脱衣所を出ることにした。

 がらりと脱衣所の扉を開くとそこには、はやてがいた。

 はやてはぽかんとした顔をしてミルアを見つめている。

 ミルアは何故はやてがぽかんとしているのかわからず首をかしげた。

 何故? ミルアの頭に疑問符が浮かぶ。


「あの、はやて?」


 ミルアがそう声をかけるとはやては、はっとしたように愛想笑いを浮かべた。

 意味がわからないというのがミルアの結論。

 何やらはやては「ある意味芸術的といえるんか?」などとぶつぶつ言っているがミルアにはその意味がいっさい理解できなかった。

 しかし、ミルアも、いつまでも全裸でいるわけにはいかない。

 はやてが着替えを手にしていることに気がついたミルアは、


「はやて、出来れば着替えを」


 ミルアにそう言われたはやては持っていた着替えをミルアに手渡した。

 下着も服もはやてのだろうか。ミルアはそう考えながら、はやてに背を向け、頭にかけたタオルを壁掛けにかけて、いそいそと服を身に着けていった。





「魔導師っ? って何? 魔法使いみたいなもん?」


「みたいなもんです」


 とりあえず驚いて見せるはやて、そしてそれに頷くミルア。

 リビングに移動した二人はソファーにすわり、ミルアは自分の事をある程度話すことにした。

 自身の素性など一から作ってもよかったのだが、はやてにはあまり嘘はつきたくない、というのがあった。


「魔法使いっていうと、箒つこて空飛んだり、人の恋路応援したり……」


「空は飛べますが箒は使いませんね、あと人の恋路云々な便利な魔法は使えませんし見たことないです」


 空を飛べるということだけで、はやてには凄いことなのだが、ふと小首をかしげ、


「具体的にどんな魔法が使えるんや?」


 はやての疑問にミルアは少し答えにつまる。

 その様子を不思議そうに見るはやて。

 ミルアは、あまり隠しても意味がない気がするし、正直に話しておこうと、一人頷き、


「もっぱら戦闘用です」


 ミルアのその言葉に面食らう、はやて。

 しかしよくよく思い出してみれば、庭に倒れていたというのが普通ではない。何か物騒なことに巻き込まれたのかもしれないと想像できる。
 

「ミルア、聞いてもええかな?」


 はやてはそう言い、事情を聞きはじめた。

 そんなはやてにミルアは答え始める。



「要するにミルアは異世界の人で悪い連中の実験に巻き込まれて、たまたま、うちの庭に跳ばされた、と」


「まぁ、そういうことです」


 なんとまぁデンジャラスな。それがはやての素直な感想だった。

 魔法に関しては先ほどミルアが軽く飛んで見せてくれた。

 魔法というものに素直に感心しながらも、はやてには一つの不安があった。

 ミルアはちゃんと自分の元いた世界に帰ることはできるのだろうか? そう思ったはやては、 


「で、ミルアは元の世界に帰る方法はあるん?」


「ないですね、残念ながら」


 そうあっさりと答えるミルアにはやては唖然とする。

 普通はもっと悲観的になってもいいはずだ。自分が元いた世界に帰れないということは家族や親しい友人に会えないということだ。

 それがどれだけ寂しいことなのか。両親が居らず、後見人がいるというだけで実質一人暮らしのはやてにとって、その想像は容易だった。

 だからこそなのかもしれない。

 帰るべき家も頼るべき人もいないミルアを助けてあげたいと思った。

 決めた。と、はやては一人頷く。そして満面の笑みを浮かべて、


「うちの娘(こ)になり」


 はやてなりに気を利かせたつもりの台詞だった。

 一見すると良い子は決して誘いに乗ってはいけない文句ではある。


「はい?」


 そう言ってミルアは固まった。

 そんなミルアをみて、はやては失敗したと思った。場を和ませるためのちょっとしたジョークのつもりだったのだが、ミルアの理解の斜め上を行ってしまったようだと。

 はやては慌てて、


「えとな、私もこの家で一人やし部屋は沢山余ってるんよ? だから、ミルアはここで暮らせばええよ?」


 はやてはそう言ってミルアの顔色を伺った。

 会ってから今のところ表情の変化が見られないから、自分の提案をどう思っているのか不安でたまらない。

 そんなはやての思いは露知らず、ミルアは少し首をかしげ考えるようなそぶりを見せた後、小さく頷き。


「わかりました。お世話になります」


 ミルアはそう言って立ち上がるとぺこりと頭を下げた。

 それを見たはやては嬉しそうに何度も頷く。


 異世界の魔導師ミルア・ゼロ。

 後に敵対したものから「救済者」などと揶揄される彼女は、今日この日、八神はやてのあたらしい家族となった。




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